【OBUコーチ】カットマンを育成するには

OBUコーチ カット


カットマンの育成の話の前に、カットマンという戦型の特性をもう一度おさらいします。

カットマンという戦型の特性

  • 相手が攻撃してくるボールを受ける戦型である。
    カットという技術は、相手のボールを受ける技術です。
    そういう意味で、カットマンは能動的ではなく受動的な戦型だと言えると思います。
    相手選手が打ってくる様々な種類の強打を、カットで拾い切る守備力が必要です。
    相手は、ストップを混ぜて前後左右に動かしてくるので、それに対応できるフットワークを支える強靭な足腰も必要です。
    ラリーは長くなるので、体力(スタミナ)決してあきらめない精神力(粘り強さ)冷静に作戦を考えられる知力も必要です。
  • カット自体は得点力が低い技術である。
    カット自体はボールの性質上、得点力の低い技術だと心得るべきです。
    どんなに素晴らしいカットを打ったとしても、それで得点することは稀です。
  • カットを主体に変化と攻撃が必要である。
    バック面に粒高ラバーや表ソフトを貼り、変化を付けるカットマンが多いのですが、裏ソフト面でも変化を自ら付ける力が欲しいところです。
    異質ラバーに頼り過ぎてしまうと、上手な攻撃型には異質面を狙われてしまい、手も足も出なくなる可能性があります。
    守備力・回転の変化・攻撃力の三位一体がカットマンの理想です。
    特に、攻撃力は現代のカットマンに必須で、これがないとなるとかなり苦しい試合展開になります。
    攻撃力があることで体力の消耗を少なくしたり、相手のカット打ちを不安定にさせたり、不利な状況を打開できたりします。

育成には時間がかかる

カットマンの育成には、「とにかく時間がかかる」と認識しておいた方が良いです。

育成の定義を、

「ある程度カット技術が使えて、試合でもある程度勝てるようになる」

とするならば、攻撃型の育成の2~3倍時間がかかると思っておいて良いでしょう。(もっと時間がかかるかも知れません)

カット打法という技術は、覚えること自体にまず時間がかかります。

通常のカットに加えて、

  • 対ドライブ
  • 対ループドライブ
  • 対曲がるドライブ
  • 対ナックル
  • 対スマッシュ

と、一通りのカット打法を覚えなくてはなりません。

さらに、それが

  • フォア
  • ミドル
  • バックカット

と分かれ、台からの距離で

  • 前陣
  • 中陣
  • 後陣

のカットと分かれます。

対戦相手を見れば、

  • 右利き
  • 左利き
  • 裏ソフトドライブ型
  • 表ソフト速攻型
  • 粒高ラバー

を使った変則型などがいます。

使っている用具は、ペンとシェークに分かれます。

さらに、攻撃型は人それぞれにクセがあり、同じ右シェークドライブマンであっても、打ってくるボールが全然違うことがあります。

つまり、カット技術は色々なボールに対して対応出来る様にならなくてはならないのです。

全てのタイプを経験することは無理なので、自分の中で基準を作っておいて、対戦した選手に対して自分の基準との差を調整していく方法が良いでしょう。

次に覚える技術として、レシーブを含めた台上プレー・ツッツキをカットと連携して覚えなくてはなりません。

カットマンの最初の大きな関門の一つでもある、フットワークがここで出てきます。

速く大きく正確に動けるフットワークを身につけることが、大成できるかどうかの鍵になります。

重点的に練習します。

ここまでで、カットマンの土台がようやく出来上がります。

さらに試合で勝つためには、この土台の上にカットを切る・切らないの回転の変化と、スマッシュ・ドライブなどの攻撃技術を覚えなくてはなりません。

サービスから3球目攻撃の他にも、カットのラリーからチャンスを作って反撃する技術も覚えたいところです。

ここまでで、カットマンには覚えるべき技術が沢山あって、しかもそれらが覚えるには容易ではないことが分かると思います。

短期的な育成と長期的な育成

中学生の卓球部の生徒を指導する例で、よくあるのが次の様なことです。

中学1年からカットマンを始めたが、上級生になる頃までに試合で勝てるようになり、最後の中体連では良い成績を収めさせてやりたい。

指導者としての気持ちはよく分かります。

顧問の先生としても、部活の団体戦で勝ってもらいたいし、中学の間に勝たせてやりたいのです。

しかし、目標のレベルにもよりますが、カットマンとして大成する基礎を作るには、中学の部活だけでは時間が足りなさ過ぎです。

実質2年半の間に、ある程度試合に勝てるレベルまで育て上げるには、本来時間をかけるべきところを省略する必要があります。

それでは将来伸び悩む可能性がありますが、「短期的な育成」としてはやむを得ない選択かと思われます。

短期的に育て上げる方法はあります。

最初から異質ラバーを使用させ、カットの変化に関してはラバーによる変化のみとします。

異質ラバーはレシーブが楽なので、ここでも育成の時間をある程度稼げます。

カット、ツッツキ、フットワークに関しては、カットのことをよく知る専任のコーチが、多球練習を中心に基礎練習をみっちりやります。

攻撃打法の練習も多球練習で行います。

ある時期からサービス・レシーブ・ゲーム練習を開始し、ゲームの感覚を身につけさせます。

おそらく各技術の連携に課題が残るので、システム(パターン)練習を採り入れます。

公式試合や練習試合を通じて課題を見つけ、練習で課題を解決するようにします。

これを繰り返します。

基礎練習は継続する方が良いと思います。

課題を見つけたとしても、基本技術の習熟の甘さから発生していることが多いからです。

短期的な育成としては以上になります。

それに対して、長期的な育成とは、そもそもの考え方が短期的な育成とは異なります。

中学時代に勝てればそれに越したことはないが、必ずしも勝てなくても良い。

その分、高校・大学・社会人で勝つ、という考え方です。

短期的育成が中学時代に勝つことを重視するのに対して、長期的育成はカットマンとして大成することを重視しています。(急がば回れ、という考え方)

技術的には、基礎練習を丁寧に深掘りします。

特に、カットの基礎を徹底的にやります。

多球練習も採り入れて良いのですが、カット打ちの専属トレーナーをつけて、カットの基準作りを中心に行います。

いずれの育成方法も一長一短があり、どちらが正解と言ったものはありません。

短期的な育成が悪い印象を持たれがちですが、試合で勝って自信をつけ選手が卓球を好きになれば、その後の成長が望めます。

長期的な育成は、試合で勝つという結果が出るまでに時間がかかります。

なので、選手に飽きが来てしまったり、指導者が時間が取れなくなるなどリスクがあります。

育成の目的とリスクについては、選手ともよく話し合い、双方が納得した上でやることです。

また成長期・思春期の中学生が相手なので、

  • 故障しないように体力トレーニングをする
  • 及び卓球に興味を持たせるように仕向ける

この2点に留意し、指導者の考えを押し付け過ぎないことに気を配りたいところです。

成長曲線を右上がりに保つには、常に技術的に上のレベルにある選手を練習相手に選んであげることです。

先の専属トレーナーの例では、選手が中学時代には高校生以上を、高校時代には大学生や社会人を相手にカットを磨くのです。

因みに元全日本チャンピオンの渋谷浩選手は、小学生から卓球を始め、中学時代には大学生相手にカットの練習をしていたそうです。

カットのレベルの高さを物語るエピソードです。

最後は自分で伸びていく

カットマンに限らず卓球選手を育成するには、最終的には「自分自身で伸びていく」ように仕向けることです。

自分の頭で考えて自分で行動していく。

そんな独立心を育まなくてはいけません。

いつまでも、指導者やコーチの言う通りにやっているという様ではダメです。

指導者やコーチがこの先もずっとついていてくれるなら話は別ですが、それはあり得ない話です。

親がコーチ、子が選手というケースでさえ反抗期などがあり、いずれ子は親の元を離れていきます。

それが自然なのです。

出来れば、選手が高校生あたりから、指導者は徐々に距離を空けていくのが良いのではないでしょうか。

それと卓球を始める時から、挨拶・返事・後始末に代表される礼儀作法の尊さを教え、感謝の気持ちを持つ選手に育てましょう。(これは長期的な育成につながります

  • 練習場に入る時出る時に一礼する
  • 家の玄関他の履物を必ず揃える
  • 練習前に「お願いします」を徹底する
  • 練習後に「ありがとうございました」を徹底する

など、具体的な実践項目を挙げると良いです。

自分自身で伸びていく選手になれば、たとえ今の指導者の手を離れていっても、新しい良き環境・良き指導者に巡り合っていくものです。

「一流の選手は一流の心を持つ。一流の心でもって、自ら一流にのし上がっていく」

と言われる。

だから一流の心を持つことがまず大切なのだ。

(山中教子著「You Can」より)

この記事を書いた人OBUコーチ(小吹 真司)OBUコーチ(小吹 真司)
昭和40年12月31日生まれ。血液型O型。兵庫県西宮市出身。現在は静岡市在住。
中学1年より卓球を始め、卓球歴は40年以上。中学高校時代は鳴かず飛ばずの成績。高校時代は県大会前の地区予選3回戦ボーイであった。インハイなど全国大会出場経験無し。大学時代飛躍的に卓球技術が向上。東海学生卓球リーグ2部で全勝しチームの優勝に貢献し敢闘賞を受賞。3人の元インハイ出場の選手に勝つ。30代の時に東海選手権(年代別個人戦)で、ベスト8に入る。高島規郎選手、古川敏明を選手を師と仰ぐ。現在も現役選手として試合に参加している。静岡市卓球協会の常任理事として静岡市の一般の試合の大会運営や広報活動を行う。また中高生の指導に当たる事もある。2005年から卓球のメールマガジンを発行中。現在も続いている。著書「OBUさんの初心者卓球上達法~卓球が上手くなりたい人へ」(文芸社)
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