全日本選手権2023男子単決勝
全日本選手権2023が終わりましたね。
今回も熱戦が繰り広げられました。
男子シングルスでは、戸上隼輔選手が張本智和選手に勝って2連覇を達成し、張本選手は惜しくも3冠を逃しました。
戸上選手の良いところが沢山出ましたね。
今号では男子シングルスを一緒に振り返ってみたいと思います。
【両選手の特徴と狙い】
張本選手は鉄壁のバックブロックと前陣での両ハンド速攻が特徴です。
戸上選手は張本選手と比べると、少し台から下がった位置での両ハンドドライブを得意で、やや攻撃偏重の傾向があります。
張本選手も戸上選手もチキータレシーブが得意で、このレシーブから先手を取るのが上手です。
ですので、お互いに相手のチキータレシーブをどの様に封じるか、チキータされた後の展開をどうするかが試合の鍵になりました。
サーブのコースは、フォア前とバック深くを上手くミックスして相手のチキータをやりにくくしていました。
戸上選手の狙いは終始一貫していました。攻撃卓球に徹していたと思います。
バック対バックのラリーは張本選手に分があると見ていた戸上選手は、早い段階でバックストレートに送って張本選手のフォアを突き、出来るだけフォア対フォアのラリーに持っていくという狙いでした。
【勝負のポイント】
私は試合を観戦する時には、いつも「勝負のポイントはどこだったのだろう?」と探すクセがあります。
この試合の勝負のポイントは、やはり第3ゲームの攻防だと思います。
この見方に異論を挟む人は少ないのではないでしょうか。
ゲームカウント1-1で迎えた第3ゲーム、これを獲った方が俄然有利になります。
両選手・両陣営ともそれは百も承知でした。
解説の水谷隼さんが言っていた様に、直前の第2ゲームでは戸上選手からすれば、アンラッキーな展開でした。
10-8と先にゲームポイントを握りながら、エッジボール2本を含む4連続ポイントで張本選手に獲られてしまったからです。
通常なら精神的にがっくりくるところを、戸上選手はよく盛り返しました。
見せ場は10-10からの一進一退の攻防です。
13-12で張本選手がリードした時に、張本選手側がタイムアウトを取りました。
どうしてもここで勝負を付けたかったからです。
しかし次の1本は、戸上選手が強気のチキータレシーブで凌ぎます。
これで、13-13。
戸上選手はフォアサイドからサーブを出し、リードを狙うも攻撃ミスが出て、またも14-13で張本選手のゲームポイントです。
次のラリーは、張本選手からすれば、またとないビッグチャンスでした。
張本選手のフォア前へのサーブを戸上選手が回り込んでフォアへチキータレシーブし、張本選手はそれをカウンターでフォアへドライブしました。
戸上選手はラケットに当てて返球するのが精一杯で、張本選手はチャンスボールを戸上選手のバックミドルへ強打します。
戸上選手がバックハンドで凌いだボールを、張本選手がバックへ強ドライブしました。
このボールを戸上選手はなんと後陣から、バックドライブで攻め返したのです。
通常なら、1本繋ぎボールで凌いだ後に、逆襲を狙うのが一般的かと思います。
張本選手は予想していなかったのか、このボールに対応仕切れませんでした。
これで、14-14。
この1本が両選手にとって本当に大きかったと思います。
結局、17-15で戸上選手が第3ゲームを奪ったのでした。
後から試合を見直した時、この1本が勝負を決めたポイントだったのではないかと私は思います。
読者の皆さんは、どうご覧になられたでしょうか。
【意外にも冷静な戸上選手】
あれだけ攻撃的な卓球をする戸上選手です。
だから私には意外に映ったのですが、インタビューの受け答えが冷静でした。
準決勝の篠塚選手とフルゲームの大接戦を勝利した直後のインタビューが、とても静かだったのです。
試合直後は興奮状態にあるのが普通ですから声も上ずったりするのかと思ったら、全然普通のトーンの会話でした。
それは決勝戦の後でも変わりませんでした。
試合中に見せる闘志溢れる姿と、あまりにもギャップがあるので私には意外です。
【戸上選手の魅力、明るいチャンピオン】
戸上選手の魅力と言えば、何と言っても、その明るさでしょうか。
優勝後に見せた屈託のない笑顔が、とても印象的でした。
「嬉しいです。感謝しかありません」
短いですが、気持ちが凝縮されていました。
まさかインタビューで、
「皆さん!元気ですかぁ~!?」
と、アントニオ猪木が飛び出すとは思いませんでした。(笑)
すっかりプロレス好きの少年の顔になっていましたね!(^^)
会場にもアントニオ猪木のテーマ曲が流れ、
「1、2、3、ダァー!!」
をかます戸上選手は本当に楽しそうでした。
こんな明るい日本チャンピオンは、私は観たことがありません!(笑)
【世界を見据えた時に・・】
盛り上がりに水を差す様で心苦しいのですが、戸上選手が世界で活躍するには、まだ道程は遠い気がしています。
戸上選手の攻撃はかなりハイレベルですが、世界では思う様には攻撃させて貰えず、守勢に回る時もあるのです。世界は広い。
相手の攻撃を跳ね返しつつ自分の攻撃に結びつける攻守のバランスが、世界で戦うには必要なのではないでしょうか。
そういう意味では張本選手の方が、一日の長があると思われます。
動き回って攻撃する卓球が、日本の指導者に好まれる傾向がある、と本で読んだことがあります。
言うは易く行うは難し、ですが、プラスアルファが必要なのだと思います。