楽しい卓球指導 その8
読者の皆さんはご存知の通り、私は中高年の初心者・初級者の人達向けに卓球指導をしています。
生徒さんの数も8名(おそらくもう3名ほど増える予定)になりました。
基本的に個別指導なので、人それぞれに技術レベルも違うし練習内容も変わってきます。習熟度も当然違います。
しかし、大局的に見ると、個々人の上達過程を超越して、共通して取り組むべき課題があることが分かってきました。
今回は大勢の人を同時進行で指導してみて、初めて気付いたことなどをシェアします。
卓球はリズム感が大事
卓球はリズム感が大事です。
プレー全体にリズム感が出てくると、格段にプレーが良くなります。
それは体験的に本当にそう思うのです。
私の高校時代は、指導者もいなくて、自分自身で強くなるしかありませんでした。
(今から思えば、それが良かったのですが)
ビデオも動画もなく、あるのは卓球雑誌と卓球の本くらいでした。
連続写真をみながらイメージトレーニングをしました。
たまにテレビで卓球のスポーツ教室や、全日本選手権が放映されると、かじりつく様に夢中になって観たものです。
そんな折、たまたま観た白黒の動画がありました。
松崎キミ代選手(世界チャンピオン2回)のカット打ちの動画でした。
相手のカットマンの選手のお名前は分かりませんが、きっと名の知れた方だったのでしょう。
オールコート対オールコートのカット打ちでしたが、両名とも足がすごく良く動いていて、全体として一定のリズム感がありました。
そして1本のラリーが永遠に続くのでは?と思うほど、とても長いのです。
例えばカットがネットインしても、松崎選手はスッと足が動き、ドライブの体勢からツッツキに切り替えます。
相手のカット選手も、スッと前に出てツッツキで処理し、すぐにカットの体勢に戻るのです。
一時リズムが崩れるものの、またすぐに元のリズムに戻るのです。
ああ、卓球と言うのはこれほど足を動かしてリズミカルに打ち合うものなのだ。と、その時心に深くインプットされました。
私はそれからというもの、かなり時間がかかり遠回りもしましたが、「リズミカルに動き身体全体を使って打つ」ことを習得して行きました。
このプレー全体の感じを私は「全体感」(私の造語です)と呼んでいます。
ワンコースの練習の中だけでは決して掴み切れなかった感覚が、全体感を磨く練習を通して掴めたりします。
私もワンコースのカットだけではしっくり行かなかったのですが、フットワークを使って切り返しのカットを練習することで調子が上がった体験があります。
そろそろ全体感の練習を
私自身そんな体験があるので、卓球を指導している生徒さん達にも、そろそろ全体感の練習を、と思います。
私が共通して取り組むべき課題だと気付いたのは、まさにこの全体感の構築でした。
しかしながら、いきなり大きく動くフットワーク練習をしても、体力的に無理があります。怪我をするリスクもあります。
生徒さんのほとんどが初心者で、フットワーク練習などやったことがないし、そもそも知らないのです。
それに加え苦しい練習は、やり過ぎると卓球への興味を失くしかねません。
しかし動きを伴って打ててこそ卓球です。
この辺のバランスを私は悩みました。
本当の初心者の生徒さん1名を除き、その他の生徒さんは動きを伴った練習をする段階に来ていると私は思っています。
さて、どの様に練習に採り入れるか。
私が実施したのは、この段階でも「個別対応」でした。
Kさんの奥さんの場合
以前ご紹介したKさんご夫婦の奥さんは、毎日の課題をきっちりとこなし、その結果、壁打ちがとても上手になりました。
つまり、打球の時の力の抜き具合と、ボールコントロールが上手いわけです。
フォア打ちのリズム感がとても良くなって来ました。本人も実感しているみたいです。
そこでフォアクロスで私のバックブロックをフォアハンドで打つ練習をしました。
・打球点は頂点を捉える
・小刻みに足を動かして軽く踏み込む
・6割~7割の力でリズム良く打つ
などを注意しながら練習しました。
ちょうどボクサーが軽いフットワークでジャブを打つ感じですよ、とアドバイスしました。
この練習の延長として、フォア半面の3分の2くらいの範囲内でボールを散らし、小刻みに動いて打つ練習をしました。
この練習がKさんの奥さんのイメージに合った様で、大変小気味良くリズミカルに(おそらく本人も気持ち良く)打っていました。
Kさんのご主人さんの場合
Kさんのご主人は、ご自身の興味ある技に関しては非常に研究熱心なタイプです。
卓球仲間にサーブでやられて悔しい思いをしてから、ならば自分もとサーブを猛練習しました。
得意はカットサーブです。
最近はフォアハンドドライブが調子良く、もう2,3項目のコツを掴めば、かなり良いドライブが打てそうなレベルまで来ました。
そこでKさんにカットサーブを出してもらい、私がツッツキで返し、それをKさんが3球目ドライブで打つ練習をしました。
基本的なツッツキ打ちの練習なのですが、最初に私がノック(球出し)して打つのと、3球目を回り込んで打つのとでは、同じドライブでもやはり勝手が違います。
あれだけ良いボールが入っていたドライブにミスが目立ちました。
全ては小刻みに動かすフットワークに起因するのです。
サーブを出す⇒ニュートラルに戻る⇒相手を観る⇒レシーブを判断する⇒予測して体勢を作る⇒3球目ドライブを打つ。
というように細かい段階があるのです。
この時に小刻みに足を動かして、微調整しなくてはなりません。
練習の後半では何本かに1本は、ナイスボールが打てるようになったKさん。
次回はもっと足の動きを意識して、3球目攻撃の精度を上げて行く予定です。
YさんやSさんの場合
Yさんは40代男性、Sさんは60代女性です。
年齢と性別は違いますが、二人ともテニスの経験があり、運動神経が良いです。
私がお二人の運動神経の良さを感じるのは、こちらがアドバイスすると自分なりに消化し、自分なりのイメージをすぐに身体で表現することが出来るところです。
イメージする力とそれを表現する力の両方があるのですね。(^^)
やってみよう!という積極性が感じられ、私は大変教え甲斐があり楽しいです。
テニス経験者の悪い所は、フォアハンドが特にそうなのですが、すぐにテニスの打ち方になるところです。
人差し指が極端に伸びて1本指しのグリップになり、下から擦り上げる打ち方です。
このクセは直ぐには治らないのですが、折に触れて指摘しています。
さて、こんな二人にそれぞれやった練習は、フォアとバックの切り替えの練習です。
バッククロスでバックハンド2本、ミドルから私のバックへフォアハンドで2本、これを交互に繰り返します。
私は全てバックブロックで返球します。
これならば足の動きは小さくて済みます。
2本ずつ打球することで、ラリーが乱れても立て直すことも可能です。
フォアとバックの切り替えですので、素早いグリップチェンジの練習にもなります。
極端なグリップでは間に合いません。ちょうど矯正する形になりました。
特に運動神経が良いYさんは、この切り替えフットワーク練習の途中でテンポアップするところまで行きました。大したもんです。
練習の後で本人に感想を聞くと、
「今までの(1本指しの様な)グリップではとても切り替えが間に合わないです」
というものでした。狙い通りです。(^^)
私は何を狙っているのか
以上、個別対応の実例を挙げましたが、私は一体何を狙っているのか分かりますか?
やった練習内容は、得意技を中心にしたフットワーク練習です。
私はこの練習はそれぞれの選手の得意技の厚みを増す効果があると思っています。(得意技をより得意技にする)
それだけでなく「動きの中で打つ」ための練習の最初の一歩だと思っているのです。
ここから始めて「試合でよく使う動きのパターン」を1つずつ練習していき、横展開して行けば、最終的には試合でかなりスムーズに動けるようになるのではないかと思います。
それに併せて今のうちに直しておいた方が良いクセの矯正も狙っています。
それぞれの選手の全体感を構築するためのスタートなのだと私は認識しているのです。
次の段階に進むためのヒントを、ここ数回の練習で私は掴んだ気がしています。