楽しい卓球指導 その7

OBUコーチ

最近、私の中で個人指導が充実しています。
生徒さんも少しずつ増えて7名になりました。

そのうち2名は卓球経験者ですが、残りは初心者です。

さて、その初心者の中でYさんという40代の男性がいます。

今号ではそのYさんのことをお話します。

Yさんとの出会い

Yさんとは、とある朝の勉強会で知り合いました。

その勉強会では毎回、ある本の読み合わせを皆でやるのですが、Yさんの読み方が周りをハッとさせるくらい立派な回がありました。

私がその点をご本人にお伝えしたところから、急速に距離が縮まり、仲よくなりました。
私よりも17歳も若い彼が友達になりました。

ある時、私に「卓球を教えて欲しい」と彼の方から真剣な面持ちで言ってきたのです。

「どうしたの?」と尋ねると、彼の職場で卓球大会をやることになったらしいのです。

Yさんはとある会社の所長をしていて(若いのに立派だ)、部下は全員女性とのことです(ちょっと羨ましい。笑)。

「いい職場だねー」と私が冷やかすと、気を遣って大変なんです!と即答されました(世の中そんなに甘くないです。笑)。

職場のレクリエーションをYさんが企画して卓球大会を提案したところ、

「いいですねー、卓球大会!」
「やりましょー、所長!」

と口々に賛同してくれたそうです。

彼は若い頃にテニスをしていて、卓球も少しは腕に覚えがあったそうです。
まあ、楽勝だろう、と。

ところが、である。

卓球大会の企画が決まった後になって、部下の女子たちから、

「実は高校まで卓球をやってましたー」
「私は中学時代、卓球部でしたー」

と次々にカミングアウトされたそうです。

その話を聞いて私は、

「いーじゃないの、負けてあげれば!レクリエーションだし彼女たちに花を持たせてあげれば」

それに対してYさんは、

「いや、そういうワケには(小声)・・・、所長として負けるわけにはごにょごにょ、 簡単に負けると面目がむにゃむにゃ・・」

とブツブツ言う始末(笑)。

私は彼のそんな真面目な一面が大好きです。

卓球大会まで、残り1ヶ月。

出来るだけやってみましょう!ということで私とYさんの特訓が始まったのです。

まるでマンガみたいな展開ですが(笑)、本当にあった話です。

練習、そして本番

テニスをやっていたYさんは、やはり初心者にしては上手で、フォアもバックもある程度のラリーは続けることが出来ました。

仕事が忙しい彼は、結局本番までに2回しか一緒に練習が出来ませんでした。

これでは、いくら頑張っても劇的な効果は望めません。
結局、一通りの技術と飛び道具としての奇抜なサーブを1つ伝授するに留まりました。

2回目の練習の時は、卓球大会直前ということもあり、Y所長が練習する噂を聞きつけた女性社員が、私も私もと大勢参加しました。

私とYさんを含め総勢8名。体育館の卓球場の半面を使う規模となり、ちょっとした練習会の様相を呈していました。

元卓球部や卓球経験者もいて、付け焼刃の練習では彼女たちに試合で勝つのは難しいと感じておりました。

最期の練習の後、YさんとLINEで連絡を取り合い、卓球大会の方式や時間、台数などを聞きました。

Yさんの最初の構想では、シングルスのトーナメント戦を行うつもりでした。

しかし台は1台とのことですし、時間も限られているので、私は紅白の2組に分かれて団体戦をやるように提案しました。

シングルスのトーナメント戦ですと、最初に負けてしまうとその選手はずっと手持ち無沙汰になってしまいます。

その点、団体戦ならば自分の試合が終わってもチームメイトの試合を応援します。

応援し、応援される関係は、チームワークも良くなります。
人間関係も良くなり、きっと仕事にも好影響を及ぼすことでしょう。

「幹部のものと相談して決めます」そうYさんは言っていました。

後日、卓球大会の様子を聞くと、

「団体戦にして大正解でした!お陰様で大変盛り上がりました」

とのことでした。

残念ながらYさん率いる白組は全敗で、紅組の大勝利となったわけですが、仕事では見れない社員同士の笑顔が見られレクリエーションとしては大成功でした。

是非、第二回大会も、という声も聞かれるそうです。

後日談

Yさん個人としては試合に負けて悔しい思いをしましたが、それ以上にかけがえのないものを得たようです。

「どうしますか?卓球指導を続けますか?」

「はい。せっかくここまでやったので、是非お願いします!」

との会話があり、本格的にYさんに対する私の卓球指導が始まりました。

本格的に始めるにあたって、私にはある秘策がありました。

秘策と言うと少し大袈裟ですが、Yさんに対しては、こんな形で卓球指導をして行けば面白いのではないかというプランがあったのです。

そして、これまでのYさんのフィーリングの良さなどを考えると、Yさんならばきっと出来るだろうという読みがありました。

私の指導の中で初心者の皆さんに最初にやってもらうのが、ボール突きです。

それはラケットでボールをポンポンと突いてもらう感覚練習ですが、Yさんは最初から座ったまま難なく出来たのです。

多くの初心者は立ってやっても、あちらこちらを動き回りながらようやく10回出来るくらいなのです。

Yさんは最初からラケットフィーリングがとても良いということになります。

それを受けての私のプランは、まず用具を上級者のものにすることでした。

私が以前使っていたカーボン入りのラケットにテナジー19を貼ったものを彼に手渡して、練習してみました。

それまでは弾みを抑えた初心者用ラケットだったので、Yさんもその違いに最初はかなり戸惑ったみたいです。

しかしフィーリングの良いYさんは、1時間の練習ですぐに慣れました。

慣れたところを見計らって、フォアとバックの基本打法の練習の後、フォアドライブを練習しました。これも私のプランの1つでした。

ボールの軌道が今までとは全然違うこと、相手コートについてからボールがグンッと伸びる感覚を味わってもらいました。

最初はミスが出ましたが、それでも何球に1回はとても良いボールが打てるまでになりました。期待通りでした!(^^)v

もちろん、やりながら褒めました。

「すごいね!」
「ナイスボール!」
「Yさんはもしかして天才!?」

大人ですから手放しでは喜びませんが、それでも悪い気はしないはずです。

それに初心者をその気にさせるのは、私の卓球指導の真骨頂です(笑)。

あっという間に1時間の練習時間が過ぎてしまいました。
楽しいと本当に時間を忘れますね。(^^)

今日の練習はいかがでしたか?と尋ねると、

「自分でも上手くなった気がします」

とYさんが言うので、私はこう言いました。

「Yさん、それは違います。

 『上手くなった気がする』

 のではなく、この1時間でYさんは

 『上手くなった』

 のです」

続けて、こう伝えました。

「ただ残念なのは、時間が経つにつれて、この『上手くなった』感覚を忘れてしまいます。まあ又思い出せば良いのですが。だから、本当は忘れないうちに時間を空けずに毎日でも練習することが大切なのです。そうすれば感覚が定着します」

Yさんは大変納得した様子でした。

そして私はYさんに宿題を出しました。

それは、次の練習日までに、

「毎日ラケットを握ってボールで回転を掛ける練習をする」

ことです。

この練習をすれば回転を掛ける感覚を忘れずに済むことが期待出来ます。

忘れないどころか、むしろ以前よりも増して感覚が研ぎ澄まされる可能性だってあります。

次のYさんとの練習日が大変楽しみになって来ました。

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