油断
前号の「敵友(ライバル)、再び」で、何故か不思議とご縁のあるMさんやSさんと再戦する可能性があることを述べました。
結論から申し上げると、残念ながら私の実力不足で両名との再戦は果たせませんでした。
Mさんと対戦する前の試合で、私はKさんというカットマンにフルゲームで敗けてしまったのです。
何故、私は敗けてしまったのか。
油断大敵とよく言われますが、今号では私の失敗談をご紹介します。
大会に向けてのファイトプラン
この大会の大会名は「全日本卓球選手権(マスターズの部)静岡県予選会」でした。
組合せが予め発表されており、ベスト4まで本戦に進めると事前に聞いておりました。
MさんとSさんのいるブロックでしたので、何とか彼らと対戦してリベンジを果たしたいと考えておりました。
彼らにはこれまでの対戦でそれぞれ数回ずつ敗けていたのです。
しかし彼らとの敗戦を通じて自分の課題がはっきりしましたし、これを克服してこそ次のステップに進めるのだと認識することが出来ました。
そのための練習を積んできていましたし、私なりの成長の手応えを感じていました。
ですから私としては、どうしても彼らと再戦して自分がどれほど成長できたのかを確認したかったのです。
もちろん本戦に進めれば、これほど嬉しく又自信が付くことはないのですが、それよりも私は成長の証が欲しかったのです。
ですから私の本大会に向けてのファイトプランとしては、なんとか初戦をものにして、次のMさん、さらにはその次のSさんとの対戦が勝負だ、などと考えていました。
実力的に言って必ず彼らが勝ち上がって来るだろうと私は予測していたのです。
一戦一勝の大切さ
この考え方そのものに、私の一つ目の油断がありました。
トーナメント戦を勝ち上がるために、ある程度の予測を立てヤマ場はどこになるのかを絞って集中して準備していくのは、一般的に良いことだと私は思います。
無計画で勝ち上がれるほど、トーナメント戦は甘くはないからです。
しかし、その前提としてそこに至るまでの各試合にある程度の勝算がないといけないのです。
初戦で当たるKさんは、あまり県レベルの年代別の試合に参加されて来なかったのか、お名前も所属チーム名も私は存じ上げませんでした。
Kさんの戦型も当日の朝に、カットマンだということを知りました。
一方のKさんは、組合せが分かった時点で知人から私の情報を集め、なんとか私を倒そうと準備をしてきたそうです。
試合は戦う前に始まっていて、準備の段階で私は後れを取っていたのです。
決してKさんとの対戦を軽く見ていたわけではないのですが、MさんやSさんとの再戦に情熱を燃やし過ぎて準備が疎かだったのです。
どんな相手か分からないのであれば、どんな相手でも戦える準備をしておけば良いのです。
これは、ある本で読んだエピソードです。
日本の南極観測隊が初めて南極に行った時に、計測器が全く使い物にならないという失敗をしたそうです。
零下四十度にもなる極寒の地で計測器を正常に動作させるために、寒さ対策を完璧に行なっていったにも関わらず、です。
日本から南極大陸まで行くには、途中で赤道という灼熱の航行を数日間行わなくてはならず、計測器が熱で故障してしまったのです。
つまり目的を果たすことに目が眩んでしまい、その過程に何があるのか、どういう対策をしておかなくてはならないのかが、しっかり準備出来ていなかったということです。
南極観測隊だって赤道を通ることは、事前に知っていたはずです。
しかし「南極=極寒」というイメージが強過ぎて、熱さ対策が飛んでいたのでした。
私の失敗はこのエピソードに酷似しています。
因みに南極観測隊は、2回目のチャレンジでは計測器の熱さ・寒さ対策を完璧に行い、見事南極での任務を果たしたということです。
トーナメント戦でヤマ場を予測することも大切なことですが、その一方で一戦一勝の考え方も同様に大切なことなのです。
私も非常に勉強になりました。(^^;;
Kさんに見習うべき点
Kさんとの試合内容にも触れておきます。
1ゲーム目はKさんが獲り、2ゲーム目は私が獲りました。
3ゲーム目はKさんが獲り、4ゲーム目は私が獲りました。
これで2-2のゲームオールです。
最終第5ゲームは、通常追いついた私の方が有利なはずなのですが、Kさんに3本のエッジボールもあり、私は9本で力尽きました。
Kさんと私は同じカットマンですが、タイプは全く違ったものでした。
どちらかと言うとKさんは変化と攻撃を積極的に仕掛けて手数で勝負するタイプでした。バック面は粒高ラバーを使用。
一方の私は、まずは相手の仕掛けを受けてそれに対処することで勝機を見出していくタイプです。両面裏ソフトを使用。
この様にタイプの違うカットマンなのですが、Kさんから見習うべき点がいくつもありました。
まず、サーブの工夫です。
同じサーブでも出す位置を変えたり、長さ・コース・回転を変えてきました。
サーブ自体は微妙な変化なのですが、これらを変えることで大きな変化になり私はレシーブに苦労しました。
レシーブミスをしたり、レシーブが甘くなり3球目攻撃を浴びたりしました。
次に、レシーブの工夫です。
私の変化サーブに対して粒高面でバウンド直後を捉えてプッシュ気味のレシーブをしてきました。
粒高の変化にタイミングの早さという変化を加えたので、私の3球目攻撃の精度が狂いました。
さらには、試合運び。
最終第5ゲームになって初めて出す技が、Kさんにはありました。
6-6で迎えた終盤で、Kさんはフェイントモーションを入れてドライブ性のロングサーブを出して来ました。
フェイントモーションに一瞬気を取られ、私は回転を見誤り、カットレシーブをオーバーしてしまいました。
何をしようと1点は1点です。
また9-9で迎えた最終局面では、私の勝負の3球目ドライブを後陣からカウンタードライブしてきました。
これはこの試合で初めて見る技でした。
全く予想をしておらず、見事にノータッチを喰らいました。
そして最も見習うべき点は、勝負に対する強い想い、すなわち執念です。
それが第5ゲームで3本のエッジボールに繋がったのだと思います。
「出来れば勝ちたい」と、「絶対に勝つのだ」の差だったのではないでしょうか。
一見、僅かな差に見えて、実は大きな差だったのです。
仮にもし運よくKさんに勝てたとして、次にMさんやSさんに勝てただろうかと、今の私は疑問に思います。
高いモチベーションで臨んだつもりの自分が、実は私の二つ目の油断だったのです。