エッジボール秘話
いつも読んで下さってありがとうございます。
前号ではネットインやエッジボールの心理について述べましたが、
今回はエッジボールにまつわるお話をしようと思います。
まずは、昔の超一流選手の話です。
たまたまその方を含む卓球経験者の方数名とお酒を飲む機会があり、
その席で伺った話です。
その超一流選手をAさんと呼ぶことにします。
Aさんは、時の世界チャンピオン荻村伊知朗氏(故人)に
勝ったこともあるという方です。
当時、この静岡ではAさんは無敵の存在でした。
同席したAさんより少し若い世代のBさんは、
Aさんを倒すのが目標だったそうです。
Bさんに限らず、打倒Aさんを目標に多くの選手が頑張っていたそうです。
ある時、BさんがAさんに勝つチャンスが回ってきました。
練習をやり込んだBさんは絶好調。
今まで全く歯が立たなかったAさんに対して堂々と渡り合い、
ついに最終セット19-16で追い詰めたのでした。(当時は1ゲーム21本制)
Bさんが俄然有利です。
実際に「この勝負はもらった」とBさんは思いました。
サービスチェンジで、ここからAさんの5本のサービスです。
Aさんはタイムを取り、何を思ったのか、
台を体育館の板の目に合わせるように微調整したのです。
そして1本目のサービス。
ゆっくりと小さくバックスイングを取り、押し出すように
Bさんのフォア前へショートサービスを出しました。
なんの変哲もないナックルサービスは、Bさんコートのエッジをかすめ、
サービスエースになりました。
次の1本も全く同じ。
ゆっくりと小さなショートスイングのショートサービスは
エッジボールとなってAさんの得点となりました。
そして、その次も。その次も。
都合、5本連続エッジボールによるサービスエースで、
終わってみたら21-19、Aさんが逆転勝利を収めたのでした。
Bさんは述懐しています。
「まさか、5本連続はないだろうと思った」
「途中で分ってはいたが、何も出来なかった」
そうです、Aさんはエッジを狙ってサーブを出したのです。
なんという技術、なんという集中力!
台を体育館の板の方向に合わせたのも、Aさんの高精度の技術に
必要欠くべからざる準備だったのでしょう。
「いや~、あれには参りましたぁ!」とBさん。
「あの場面では、あれしかないと思ったよ」とAさん。
そんな具合に、AさんとBさんが昔話に花を咲かせている横で、
私は口をあんぐり開けて、只々恐れ入る他はありませんでした。(笑)