楽しい卓球指導 その3
以前「楽しい卓球指導 その2」という記事を書きました。
その中に登場したKさんご夫婦が、ご友人に私のことを紹介してくれました。
そのことがきっかけで、新しい生徒さんが加わりました。
名前をSさんと言います。
Kさんご夫婦と私の練習の見学の回、お試しで私と練習する回を経て、晴れて「定期的に練習をして行きましょう」という話になりました。
三人とも卓球初心者で、三者三様で指導のやり甲斐があります。
今号では最近の指導の中で、私が気付いたことを読者の皆さんとシェアしたいと思います。
私の卓球初心者指導歴
「指導」というほどではないけれども、私は卓球初心者の皆さんと一緒に、一定期間卓球を楽しんだ経験があります。
まだ私が20代から30代の頃の話で、その時私が在籍していた会社には別棟にプレハブの建物があり、卓球台が3台置いてありました。
昼休みになると、協力会社を含めた多くの部署の老若男女の卓球好きが集まり、みんなでダブルスの試合をして楽しみました。
普段の仕事ではまず顔を合わせない人たちが卓球を通じて交流するのです。たまに忘年会や送別会と称して、カラオケに興じたりした思い出があります。
何とも牧歌的で平和で楽しい時代だったとその頃のことを回想します(笑)。
私はそれまで競技として卓球をしてきましたので、初心者とどう接したら良いかが分かりませんでした。
普通に(本気で)卓球をしてしまうと、レベルが違い過ぎてしまうからです。
そこで私は自分からは滅多に攻撃しない様にしました。そして相手の技量を見極めて、その人が頑張れば返球出来るところにボールを送ることに専念しました。
そして極めつけは「褒める」。← 笑
「上手い!」「素晴らしい!」「ナイスボール!」「ナイスコース!」などと、間髪入れずに褒めまくりました。
たとえパートナーがミスをしても、「惜しい!」「もうちょい!」「狙いは良かった!」「入ってたら決まってた!」などと褒めました。
スーパープレーが出た時は、「うぉ!」「ひょっとして天才!?」など、少し大袈裟に褒めます。
ホームランの様なとんでもないミスをした時だけ、「ドンマイ」と小声で言います。
この時はダブルスの試合がメインでしたが、
私は自分のパートナーにこのような声掛けをし、順番待ちしている時は目の前でプレーしている両方のペアにも同様に声掛けをしていました。
人は他人から褒められれば嬉しいし、もっと褒められようと頑張ります。
徐々に良いプレーが出たりして、上達すればまた褒められるという好循環が生まれます。
延べ20人くらいの集まりでしたが、全体のレベルがみるみる上がって行きました。
待ち時間の間に、少しだけ個別アドバイスをしました。「ここをこうするともっと良くなるよ」みたいな感じで。
この辺りの詳細は、私の拙著「OBUさんの初心者卓球上達法~卓球がもっと上手になりたい人へ」に書かれています。
指導者というよりも伴走者という立ち位置で、初心者の皆さんに関わっていました。
この時の経験が今になって活きているのだと最近感じています。(^^)
Kさんご夫婦の相乗効果
Kさんご夫婦は、私から見て同じくらいの卓球の腕前です。
私は二人同時に教えているのですが、最近、相乗効果があることに気付きました。
私が奥さんを教えている傍らで、ご主人さんは球拾いをしながらその様子を見ています。
交代してご主人さんを教えている時は、今度は奥さんが球拾いをしつつ、その様子を観察しています。
私は一人一人と打ちながら色々アドバイスをするのですが、それを傍らでも聴いているわけです。
見取り稽古と実際の練習を交互に繰り返し行う形で、
「自分がやった練習の復習」あるいは
「自分がこれからやる練習の予習」
が出来るわけです。
大人の卓球初心者が上手になる過程としては「頭で理解して身体で覚える(表現する)」というやり方が一般的に良いと思います。
頭の中でイメージをよく作った上で実際の練習をすると上達が早いです。
ですので、見取り稽古と実際の練習を交互に繰り返し行う形は効果が高いのです。
一方で「細かい説明は後回しで良いから、とにかく身体で覚えろ」というやり方もあります。
理解力のない子供や、イメージ先行の右脳系の大人には、このやり方の方がむしろ本人たちが受け入れやすいかも知れません。
Kさんご夫婦は前者のやり方が合っているらしく、お互いに指摘し合っています。
私がご本人に言ったアドバイスや自分では気付きにくい癖などを、また違った表現で伝えてくれます。
私が言葉足らずのところを補ってくれる形ですので、これは大変ありがたいです。
また、私と行う練習とは別の日に、二人で練習をやっているみたいです。
私は宿題として自宅でも出来る課題をお二人に出すのですが、二人だからこそ継続して取り組んで頂けます。
自宅でも出来る課題というのは、ボール突きと壁打ちです。
奥さんの方が真面目で熱心できちんと取り組んできてくれますが、ご主人さんの方は飽きっぽい性格らしく、あまりやりません(笑)。
やっている人とやっていない人は、こちらは見ればすぐに分かります。
ということで、ご主人さんは奥さんによく怒られています(笑)。
これも二人同時に教える相乗効果の1つだなぁと、私は笑いながら見守っています。
Kさんご夫婦を指導し始めて、ちょうど4ヶ月が経過しました。
これまでは、お二人に同じ練習メニューで練習していましたが、最近では、練習内容を少しずつ変えています。
将来に目指す卓球のスタイルが、ご主人さんと奥さんとでは違う様な気がするからです。
それぞれ得意な技術も違います。
お二人の特徴をそれぞれよく観察すると、この技術を中心に伸ばせば良いのでは?という点が見えてきています。
現時点で私が思っているのは、ご主人さんはドライブを中心とした攻撃型、奥さんは守備と攻撃をバランスさせた前陣攻守型が向いている様です。
Sさん指導開始!
一方、最近指導を開始したSさんは、Kさんご夫婦とは全く違ったタイプです。
性格的にはとにかく明るいです。
こちらが聞いてもないことまでベラベラと喋っては、一人でケラケラと笑っています。
「あのー、その口を動かす前にラケットを振ったら」と、こちらがツッコミを入れたくなるくらいおしゃべりが大好きです。
ところが少し一緒に練習してみると、彼女は非常に可能性のある選手だと言うことが分かりました。才能豊かなのです。
長年テニスをやっていて卓球は我流ですが、リズム感がよく、ポイントを掴むのが上手いのです。
ある技術について私が少し教えると
「あ、それ、分かります」
とすぐ言います。
調子いいこと言うなあ、本当に分かっているのかな?とこちらが思って実際にやってみると、完璧に出来ないまでも「分かって」いるのです。もう少しで出来そうなのです。
これには驚きました。
話を伺うと運動神経の良い家系に生まれ育ったそうで、鉄棒以外のスポーツは、すぐに人並み以上に出来たそうです。
運動脳が良い(運動神経が良いとも言いますが)のだと思います。パッと勘所が分かってしまうのでしょう。
私は運動神経は人並みですが、中学一年生の時にバレーボールのオーバーハンドトスだけはすぐに出来ました。
手のひらではなくて指で打つのですが、見本を先生が見せてくれた瞬間に、きっとこうするのだろうとイメージが湧きました。
後は、先生の格好を真似すれば良いだけで、上目遣いでボールの下に入り込む、両手を顔の前に持って来る、膝を曲げてボールを待ち打つ時に伸ばす、などを順番に採り入れました。
バレー部員の級友とペアで皆の前で見本をやるようにと先生から言われました。
卓球にもこんな才能が有れば、もっと私は上手になっていたのでしょうが、残念ながら無かった様です(泣)。
そんな一面が私にもあったものですから、Sさんがパッと直ぐにコツが分かるのも、理解出来るのです。
本人曰く典型的なB型の性格らしく、興味のあることはとことん追求し、束縛されるのは大嫌いなんだそうです。
ということらしいので、Sさんの場合の指導のやり方は「本人の自由にやらせる」ことにしました。
最初にバック対バックのラリーをしました。
面を固定して押し出すスイングでラリーをやっていましたが、そのうちSさんが、
「ほら、あのバックハンドでバシッと打てるとカッコいいじゃないですかー」
とか言い出すものだから、私も
「じゃ、ちょっとやってみますか」
と少し手首を使った打法を伝授しました。
もちろん最初からそんなに上手くは行かないのですが、もう少し練習を積めばモノになりそうですし、何よりもSさんが楽しそうでした。
Kさんご夫婦の時の指導とは全然違います。
フリーハンドが使えてなかったので、伊藤美誠ちゃんの様にフリーハンドを添えて打つとカッコいいですよ、と私が言うと、
「美誠ちゃんより私は佳純ちゃんがいい!」
などと言い出す始末です。
内心、どっちでもええわと思いながらラリーを続けていると、
「どうです? 私が佳純ちゃんに見えてきましたか?」
とかケラケラ笑いながら聞いてくるので、
「見えるわけないでしょ。佳純ちゃんに失礼ですやろ!」
と笑いながら返しました。
あっという間に楽しい1時間が過ぎ、また来週練習しましょうと別れました。
本人の目標は「試合に出ること」です。
それを思うと、こんな指導方法で良いのだろうかと自問自答しつつも、
「ま、本人が楽しむのが一番ではないか!しばらくはこの調子で行こう」
と思っているのです。