サーブの活かし方
前号では
「狙ったところにサーブを出す重要性」と、
「相手の心理を読んで、ヤマで相手の弱点に自分の得意のサーブをぶつける」
ことについて述べました。
今号では、1つのサーブで難敵を倒したエピソードを紹介します。(^^)v
山中教子さんが「YOU CAN」卓球レポート編集部)の中で記した
自身の経験談で、私も大変感銘を受けたものです。(*^^*)
当時、日本女子は中国と2強と言われて、凌ぎを削っていました。
66年の日中対抗でのこと。
山中さんと対戦した李選手は両ハンドを振るタイプで、緒戦の東京大会こそ
逆転勝ちしたものの、名古屋大会では両ハンドに押しまくられて敗れます。
それ以降、毎日「なにかないか?なにか効く手はないか?」を探し続けた
結果、あるポイントのレシーブがやりにくいことを発見します。
それは「深くてよく切れたボールを詰まって打たされる場面」でした。
特に身体の真ん中からラケットハンド側の腰のあたりまでの範囲。
そのコースに長短を計算してうまく打つと相手は打ちづらそうなのです。
やがて相手は回り込んでドライブでレシーブしてきます。
これは山中さんの得意なボールで狙って行けます。
そして、いよいよ対戦の日を迎えます。
この頃、中国は文化大革命の火ぶたが切られた矢先で、1万人の観衆は
毛沢東の語録を片手に、マイクのリードに唱和して大声援を送るという
熱狂ぶりでした。
山中さんは秘かに練習してきたサーブを李選手の構えを見ながらぶつけます。
「フォアで打つボールではないがバックで打つには少しコートの中央寄りに
動いて打たなければならない位置、そしてかなりの振りで打たなければ入ら
ない下回転の長めのサーブ」
1球目は李選手がさすがに確実なバックハンドでするどくクロスへ返してきま
した。が、これは待っていたので、打ち返して得点。
2球目は、李選手のレシーブミス。
以降は、ほとんどと言っていいくらい、下回転のサーブを出し続けます。
李選手も構える位置を少し変えたり、注意してそのサーブを待つように
し始めたのですが、
「その構えをみてはまともに打たせない位置」に
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山中さんはサーブを出し続けたのです。
本格的な両ハンド攻撃型の李選手は、当然のことのようにバックハンドを
多少ミスしても打ちながら調子を上げようとして、苦労しながらもバックで
打つことを止めません。
そのまま続けて行くうちにいいボールが入り出せば彼女の勝ちだ。崩れるか、
バックハンドを捨てさせてツッツキやショートなど他の技術を使わせれば
私の勝ちだ。問題はこのサーブを中心とする勝負で、彼女をそこまで追い込む
ことだ。そうしたら試合は私のペースになる。
そう考えた山中さんは、しつこく一球一球気合いを込めてサーブを切り、
勝負を掛けます。
ついに李選手は強引にバックで打つことを止め、回り込んでフォアハンドで
レシーブしてき出したのです。
「私の方が粘り勝った!」と山中さんは思ったそうです。
前回負けた時は、小さく止まるサーブをツッツいてレシーブしてしまい、
それを両ハンドで一方的に打たれたのですが、今回は払うレシーブでうまく
コースを打ち分けられたのです。それでレシーブの番に回っても予想以上に
得点できたことも勢いに拍車をかけました。
糸がプツンと切れたかのように、ゲームの中盤に入ったところで
李選手の気力が落ち、プレーが崩れました。
異常な状況下で李選手が緊張していたことも差し引かなくてはなりませんが、
しかし前回あれほどめった打ちにされて「本当に強い」と感じさせた彼女の
プレーが、たった1つのサーブで崩れて行ったのです。
この試合は「戦型の持つ弱点に、連続して同じサーブを効かせて」勝った
私自身の最も印象に残る一戦です。と山中さんは述懐しています。